大きな違いは、冷却した際に、氷の結晶が細胞内外に形成されるか否かです。凍結保存方法は氷の結晶を成長させながら冷却します。一方、ガラス化保存は氷の結晶を生じさせずに冷却します。
哺乳動物の卵子や胚の細胞質は、85%程度が水で構成されています。これらの細胞を氷点下まで冷却すると氷晶を形成しますが、細胞内の氷晶形成は細胞を物理的に破壊することになるので、細胞の凍結保存においては、これを防ぐことが最大の課題と言えます。このため、保存液に凍結保護物質を添加しています。細胞を長期間保存するためには、(多くの水分を含む)細胞を固体にしなければなりませんが、液体が固化する場合には氷晶を形成する場合と形成しない場合があり、後者をガラス化(vitrification)と呼んでいます。これは、低温下で液体の粘度が高まり、一定の温度(ガラス化転移温度)以下で固化する現象で、氷晶を形成しないのが特徴です。ちなみに、細胞内のガラス化転移温度は−130℃ですので、ガラス化した細胞の保存には、ドライアイス(−79℃)ではなく液体窒素(−196℃)が必要です。
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グリセロール、エチレングリコール、DMSO、プロピレングリコール等は分子量が100以下ですが、これらは細胞膜を浸透することのできる凍結保護物質として用いられています。また、凍結前の平衡での細胞内の急激な脱水、融解後の細胞内への急激な水の流入防止といった細胞膜の保護のために、細胞膜を透過せず浸透圧効果のあるシュクロースやラフィノースなどの少糖類や高分子物質を生理的な溶液に添加しています。
液体窒素中で生きた細胞を凍結保存すると、すべての代謝活性がほぼ停止し、半永久的に保存可能と言われています。唯一問題となるのは、保存期間中に受ける宇宙や地中などに由来する自然放射線の影響ですが、バックグラウンドの放射線量(自然放射線)の84倍量の放射線を29ヶ月間照射(約200年間の自然放射線線量相当)した凍結胚において、融解後の生存性や得られた産子には、まったく影響がなかったとの報告があります(Whittingham et al., Long-term storage of mouse embryos at -196 degrees C: the effect of background radiation. Genet Res 29:171-181, 1977)。
また、25年間液体窒素中に凍結保存したマウス胚から正常な産子が生まれていますし、家畜においても、20年間保存されたウシの凍結精子の人工授精で産子が得られています。 従って、胚や精子を液体窒素中で凍結しておけば、半永久的な保存が可能と思われます。 発生率は低いですが、正常な産子へと発生します。移植胚の10〜20%が産子へ発生し、その後の発育や繁殖能力も正常であることを経験しています。
また、人為的にマウスの2細胞期胚あるいは4細胞期胚の割球を2分離(それぞれ1/2胚、2/4胚)して体外培養後、桑実胚および胚盤胞に発生した2分離胚を移植した結果、1/2胚では25%、2/4胚では29%が産子へ発生したことが報告されています(富樫ら、マウスの2細胞期胚分離による一卵性双生仔の作出、家畜繁殖誌、33: 51-57、1987)。 Q6:ドライシッパーに液体窒素を十分に充填して海外へ送ったのですが、結果的に液体窒素がカラになってサンプルは融けていました。このドライシッパーは故障(不良品)していたのでしょうか?
輸送中にドライシッパーが転倒していたと思われます。ドライシッパーを横倒しの状態で置くと、5〜6日で液体窒素が蒸発し、凍結精子や胚が融解してしまいます。必ず、上面にTHIS SIDE UPと注意書きをして、輸送中に横倒しにしないようにしてもらうことが重要です。 宅配業者毎に液体窒素の取り扱い規定が異なります。通常の液体窒素タンクは扱いませんが、タンクが倒れても液体窒素がこぼれないドライシッパーは取り扱う業者もあります。さらに同じ業者でも地域によって扱いが異なりますので、事前の確認が必要です。
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