新刊書のご紹介
最新版 図解 知識ゼロからの畜産入門 田島淳史監修 家の光協会 定価(税込)1,870円 発行日 2023年1月20日 ISBN 978-4-259-51874-5 https://www.ienohikari.net/book/9784259518745 【内容】畜産を初めて勉強される方や、畜産の概要を理解しておきたい方などを念頭に、図解と文章で分かりやすく解説した入門書。牛・豚・鶏それぞれの詳細や、畜産の歴史と発展、アニマルウェルフェア、畜産をめぐる環境問題など、幅広い内容を簡潔に解説。
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「ラット凍結精子の受精能を高める技術を開発」 以下のリンクからご確認ください。 https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei-sentankenkyu/20221024 本研究会の特別名誉顧問 豊田 裕先生が、去る2021年5月28日に86歳でご逝去されました。
奥様によりますと、先生は10数年前に肺がんの手術をお受けになり、その後は順調でお元気にお過ごしでした。しかし、2018年に再発と新たに転移が見つかって加療中でしたが、5月28日に自治医科大学病院でお亡くなりになりました。なお、告別式はコロナ禍ということもあり、ご親族のみで執り行われたとのことであります。 豊田先生は、1953年に東京大学農学部畜産学科をご卒業後、同大学院を修了され、1962年に東北大学農学部助手(家畜繁殖学講座・竹内三郎教授)として勤務されました。1967年7月から1968年8月に米国・ウースター実験生物学研究所のDr. M.C. Changのもとに留学され、透明帯除去ラット卵の体外受精を世界に先駆けて成功させ、Nature誌に発表しておられます。 この留学を途中で帰国され、1968年10月に、新設されて間もない北里大学畜産学部(現在の獣医学部)に助教授として赴任されました。着任後すぐに家畜育種繁殖学研究室を開設され、学生の教育とともにマウス体外受精の研究を開始されました。そして1970年4月の哺乳動物卵子談話会(現在の日本卵子学会)ならびに日本畜産学会で、わが国初の哺乳類の体外受精の成功を発表されました。なお先生は、Dr. M.C. Changから再び招聘を受けて1972年6月から12月に短期留学され、ラットの体外受精卵を移植して産仔を得ることに世界で初めて成功しておられます。 その後、北里大学教授を経て、1987年に東京大学医科学研究所獣医学研究部教授として異動され、自ら確立した生殖工学技術の基盤の上に最新の遺伝子工学技術を導入して、新しい疾患モデル動物の開発と、その動物を用いた個体発生過程の遺伝子制御に関して幅広い研究活動を展開し、多くの業績を挙げておられます。 1995年には東京大学を定年退職され、帯広畜産大学原虫病分子免疫研究センター教授として異動されました。同センターにおいても、スカベンジャー受容体遺伝子欠損マウスのバベシア原虫感染に対する感受性の解析、およびトキソプラズマ原虫抗原遺伝子導入トランスジェニックマウスの作製などを精力的に展開され、原虫病研究への発生工学的アプローチの有用性を具体的に示されました。さらに同センター長を経て、1998年に帯広畜産大学名誉教授になられました。 先生は、永年にわたって、畜産学・獣医学の教育、研究に努められ、また生物学、医学など関連研究分野との境界領域を積極的に開拓され、多くの優れた研究業績を挙げられました。特に、1970年代にご自身が主導されてわが国の生殖工学を創成するとともに、1980年代に始まった発生工学でも黎明期からこの研究分野のリーダーとして先頭に立ってリードされました。先生がおられなかったら、わが国の生殖工学と発生工学はもっと違ったものになっていたのではないでしょうか。 教育者としても卓越した手腕を発揮され、有為の人材の養成にも多大の貢献を果たされました。先生は大変穏やかなお人柄で、学生や若い人たちにも対等な立場で接してくださり、ご自分の考えを押し付けるようなことはまったくなさいませんでした。一方で、研究への取り組みは常に厳しく、実験の進め方や論文執筆については一切の妥協を許すことはありませんでした。しかもそれを言葉に表すのではなく、ご自身の日々の姿勢でお示しになられました。 さらに門下生が社会に出てからも、何かあると親身になって相談に乗ってくださいました。1990年に、本研究会を豊田門下生が中心になって立ち上げましたが、この会で度々お話していただくだけでなく、特別名誉顧問の立場からいろいろとご支援いただきました。先生は毎年12月に開催される定例会を楽しみにしてくださっていて、毎回欠かさずにご出席くださいました。そして発表演題の一題ごとにご質問され、さらに研究を進展させるための適切なアドバイスをしてくださいました。 先生は、お酒をこよなく愛され、おいしそうに杯を重ねるほどに朗らかに話題も弾む、まことに楽しいお酒でした。このような席で、先生からどれほど多くのことを学ばせていただいたか計り知れません。そんな熱くて楽しい先生のお話を、もう聞くことができないのは本当に残念です。 ここに長年にわたる温かいご指導を感謝申し上げるとともに、心から哀悼の意を表します。長い間、本当にありがとうございました。 2021年8月24日 動物生殖工学研究会 会長 横山峯介 本研究会の会員による論文解説を掲載します。 【タイトル】 マウス卵管の活発な蠕動運動と卵管液の分泌:卵管液や精子の輸送ならびに受精との関係 Active peristaltic movements and fluid production of the mouse oviduct: Their roles in fluid and sperm transport and fertilization 【著者】 日野 敏昭1)、柳町 隆造2) 1) 旭川医科大学医学部生物学教室、2) ハワイ大学医学部 【要約】 精子が卵管内をどのように移動して卵子に到達するかについて、これまでの通説では、卵管の中を卵管液が子宮方向に緩やかに流れており、精子はその流れに逆らったり、卵子や卵子を取りまく細胞から放出された精子誘引物質にひかれたり、温度差を感じたりして、卵管膨大部の卵子に泳いで到達するとされてきた(下図左)。しかし、これらの仕組みは卵管を体外に切り離したり、精子を体外に取り出したりして得られた観察結果から推測されたことであり、生体内でも同じ仕組みが働いているかどうかについて十分な検証は行われていなかった。今回の研究では、卵管を体から切り離すことなくできる限り自然な状態で観察する手法を考案し、卵管の動きや卵管液の流れ、精子の移動のようすを観察した。その結果、卵管は卵管液を活発に分泌しており、それが卵管の活発な蠕動運動よって、卵巣方向に速い速度で押し流されていることが明らかになった。精子はこの流れにのって卵管膨大部の卵子に到達していると考えられる(下図右)。 【背景】 卵管は受精と発生が開始する場として大切な器官である。交尾によって雌の体内に送り込まれた精子は、すみやかに子宮を抜けて卵管に入るが、その後しばらくは卵管の入口付近(子宮側)に留まる。数時間後、精子はそこを離れ、排卵された卵子のある卵管膨大部へと向かう。 これまでの通説では、卵管の中を卵管液が子宮方向に緩やかに流れており、精子はその流れの中を泳いで卵管膨大部の卵子のもとへ向かう(走流性)、卵子や卵子を取りまく細胞から放出される精子誘引物質が子宮方向に向かって流れるため、精子はそれにひかれるように卵管膨大部へ向かう(走化性)、または卵管膨大部の温度がわずかに高いため、精子は温かい方へ向かう(走温性)と考えられていた。 このような精子の性質や卵管液の流れは、いずれも卵管を体外に切り離したり、精子を体外に取り出したりして得られた観察結果であり、体内では精子が如何にして卵管膨大部の卵子までたどり着くのかについて調査した研究はなかった。本研究では、実験動物であるマウスをモデルにして、卵管を体から切り離すことなく血流や神経連絡を保ったまま観察する手法を考案し、それを使って卵管の動きや卵管液の流れが精子の移動や受精にどのような影響を及ぼしているのかを調べた。 【研究手法と成果】 1.卵管の動きと卵管液の流れについて マウス卵管の観察システムを図1に示す。まずは卵管液の流れを可視化するために、卵管の入口付近に微量の墨汁を注入した(図2A)。 発情期の卵管は激しく蠕動していたが、その動きを動画撮影して詳しく調べたところ、蠕動の方向は、卵管の入口付近から中間部までは、卵巣方向であったり子宮方向であったりと、不規則な動きをしていた。ところが、卵管膨大部が近くなると卵管は卵巣方向に蠕動するようになった。この蠕動運動に同調して、卵管内の墨汁も卵管の入口付近から中間部までは行ったり来たりの動きを繰り返しながら卵管膨大部に向かって少しずつ進み、中間部を過ぎると一気に卵管膨大部に向かって移動した(図2B、別ウインドウで動画を開きます)。墨汁は平均して30秒以内に1.2cm先の卵管膨大部まで達した。速さに換算すると毎秒400μm以上となり、実に、精子が泳ぐ速度の2倍以上だった。 2.卵管液の由来について 卵管の入口付近に注入した墨汁は、卵管を通って卵巣嚢に入り、最終的に卵巣嚢孔から腹腔へ流れ出た。ところが、子宮に注入した墨汁は卵管へ移動しなかった。この結果から卵管液は子宮から分泌されたものではないことがわかった。そこで、卵管のいろいろな部位を結紮して卵管液の流れを妨げてみた。すると、どの部位で結紮しても卵管は大きく膨らむことがわかった(図3)。 3.卵管の動きや卵管液の流れと受精の関係について 遺伝子操作で光るように改変された精子を卵管の入口辺りに注入して精子の行動を追跡した。生きた精子は卵管膨大部に到達し、ほぼすべての卵子が受精した。一方、死んだ精子は卵子と受精しなかったが、生きた精子と同じように卵管膨大部に到達した。薬品を使って卵管の動きを止めたり、卵管の出口を結紮して卵管液の流れを止めたりすると、生きた精子であっても、卵管膨大部への移動が妨げられ、受精は大きく抑えられた。 以上から、卵管内には卵管液が常に分泌されており、その液が卵管の蠕動によって卵巣方向に押し流され、その流れが精子を卵管膨大部の卵子へと運んでいることが示された。 【今後の課題と展望】 今回マウスで発見された仕組みが、ヒトを含めたその他の哺乳類に広く共通しているかどうかを調査することで、哺乳類における体内受精の過程の理解がより一層深まると考えられる。また、将来的には不妊症の原因解明や、新たな不妊治療法の開発をも視野に入れた生殖医学の研究につながっていくものと期待される。 【原著論文情報】 Hino T and Yanagimachi R, Active peristaltic movements and fluid production of the mouse oviduct: Their roles in fluid and sperm transport and fertilization, Biology of Reproduction, 2019, DOI: 10.1093/biolre/ioz061, https://doi.org/10.1093/biolre/ioz061 *ここをクリックし別ウインドウで動画を再生します*
我が国における体外受精の誕生から50年・当時の北里大学学内新聞記事からの検証 職場を替わるたびに持ち歩いていた昔の段ボール箱を久々に開ける機会があり、古い実験ノートの間から、半世紀前に発行された北里大学畜産学部(現在の獣医学部)の学内新聞「馬放平*」を見つけた。これを読み返して、設立されたばかりの畜産学部に入学し、7年間を過ごした十和田キャンパスの懐かしい情景を思い出した。 この中に、豊田裕先生がアメリカ留学から帰国して北里大学に赴任され、家畜育種繁殖学教室を立ち上げて学生の指導と研究を開始した当時のインタビュー記事が載っていた。それを読むと、先生の学生教育に対する並々ならぬ情熱と細やかな心遣い、そして研究者として世界の第一線でしのぎを削る熱い意気込みが伝わってくる。さらにこの記事の中に、教室の研究紹介として、「哺乳動物(現在は実験動物)の体外受精に関する研究を行っているが、我が北里大学育種繁殖学教室が我が国では初めての試みとして注目されている。(中略)現在マウスでは成功しており徐々に家畜へ移行する見込みで見通しは明るい。」との記載がある。関係者以外にはあまり知られていないかもしれないが、我が国における哺乳動物の体外受精の最初の成功例は、豊田先生によって十和田市の畜産学部でなされた。このことが活字として公表されたのは、この馬放平の記事が最初なのではないだろうか。初めて体外受精に成功した正確な年月日の記述はないが、先生が畜産学部に着任されたのが1968年10月で、この馬放平の発行が1970年2月18日だから、その間の1969年中ではないかと推察される。まさに今年(2019)は、ちょうど50年の節目となる記念すべき年である。ちなみに最初の学会発表は、1970年4月の第11回哺乳動物卵子談話会(現在の日本卵子学会)と第56回日本畜産学会大会で、論文発表は翌年の1971年6月である。 豊田先生が、居室の片隅で始められたマウスの体外受精は、いまや我が国では、凍結保存や初期胚操作などの技術と組合わされて、生殖工学や発生工学と呼ばれる重要な研究領域を創成するまでに発展している。さらに動物種は、実験動物や家畜のみならず、ヒトの生殖補助医療としても不可欠な技術として、大きな貢献を果たしていることは広く知られているとおりである。 半世紀ぶりに見つけた「馬放平」で、今年が、我が国で体外受精が誕生して50年目となる記念すべき年であることを検証できたので、執筆者の許可を得て、ここに転載させていただくことにした。ご一読いただければ幸いである。 最後に、記事の転載をご承諾くださった、当時の新聞委員会委員でこの記事を執筆された斗沢清氏に深謝いたします。また、本稿を校閲していただいた豊田裕先生に厚く御礼申し上げます。(2019年2月12日記) *馬放平(うまはなしたい):畜産学部の学生同好会・新聞委員会が定期刊行していた学内新聞。名称は、十和田地方が馬産地だった昔、大学の場所が馬の放牧場であったことに由来している。 1970年当時の北里大学畜産学部(現在の獣医学部)の校舎。これらの建物はすべて建て替えられて残ってはいない。 「馬放平」のなごりが感じられる当時の十和田キャンパスの冬景色。 馬放平:研究室めぐり③
育種繁殖学教室:助教授 豊田裕(農学博士・東京大学)、助手 福田芳詔(農学士・東北大学)、研究補助員 金沢節子(三本木農高卒) いつ行っても沢山の学生がいる教室。ディスカッションに余念のないそんなにぎやかな研究室に我々は訪れた。まず豊田先生が出てこられ心易く応対していただき、原稿を書く側として感謝にたえない。終始一貫した先生の折り目正しい応対に我々もしばし圧倒され気味で、学生時代武道(剣道)に励まれたことを肌で感じさせられた次第である。 では本論に移ろう。豊田助教授の学位論文(昭37)は排卵数の決定機構について、具体的に説明するなら動物種によって生まれる子の数が異なるが、それはどのような機構で決定されるのかをネズミを用いて研究された。特に代償性肥大、つまり片方の卵巣を除去すると残された卵巣が二つ分の働きをするという現象を手掛かりとして、脳下垂体からの性腺刺激ホルモンと卵巣から分泌されるステロイドホルモンとの間のフィードバック機構と排卵数との関係を明らかにされた。その後、東北大学農学部家畜繁殖学教室に勤務され六年間学生の実験実習の指導をされ、かたわら研究面では主に性周期の同期化すなわち動物の発情を一斉に起こさせ同時に種付けして生産させる研究に従事された。具体的方法の一例として上げるならば、話題になっている経口避妊薬と同じような黄体ホルモン誘導体を用いて牛の性周期を支配する方法で、これを研究された豊田助教授は我が国で初の試みの一環になられたわけである。昭和四十二年ボストン近郊にある性ホルモンの研究で名高いウースター実験生物学研究所に留学され、一年間生殖生理学の基礎的研究、特に哺乳動物の卵子の体外受精について研究された。研究成果はただちに世界的科学雑誌であるネイチャー誌上に発表され研究者間の話題を呼んだ。帰国後、一昨年十月北里大学畜産学部育種繁殖学助教授として着任された。現在教室の研究の主眼は学問的に興味のある事柄と実際的な畜産に役立ちうる事柄、この二つの研究の融和にあるといわれる。まず前者として哺乳動物(現在は実験動物)の体外受精に関する研究を行っているが、我が北里大学育種繁殖学教室が我が国では初めての試みとして注目されている。それは炭酸ガス培養装置を用いて試験管内で精子と卵子を結合させるもので培養条件の検討が今月の課題となっている。現在マウスでは成功しており徐々に家畜へ移行する見込みで見通しは明るい。教室内の雰囲気の明るさはこの辺にも原因があるようだ。将来、この研究を基にして種の異な動物間の体外受精による新しい雑種を作り出すことが研究室の一つの夢であるという。実際面の研究としては性周期の同期化(前述)についてであり、人工授精の関連において数多い研究課題を提供している。すでに豚を用いての研究計画が立案され、今年より始まる予定である。 福田助手が東北大学家畜繁殖学教室において学士論文として研究されたことはラットの胚発生に及ぼす抗甲状腺剤の影響で、卒業に際しこの成果を日本畜産学会大会で発表されたことが注目に値する。研究の動機としては、竹内東北大教授の受精卵着床の研究に興味を持たれたからだそうである。その時の想い出として、抗甲状腺剤の懸濁液をカテーテルを用いてラットに経口投与する時に癖の悪いラットにカテーテルをかみ切られたり指をかまれたりしたことが今では懐かしい経験であったといわれる。その苦労の甲斐あってか、カテーテル取扱いのプロフェッショナルとなられその腕前は確か。やはり学問研究に王道なしというべきか?この研究によって自分で一から十までやったという満足感に加えて、育種繁殖学研究に対する自己の自身を深められたようであった。趣味として園芸をやっておられる。長きにわたる庭のない下宿生活が残念そうであった。研究室内でも学生と一体となって取り組んでおられるその様子は、若さあふれる良き指導者といった感じで好感が持てた。 美人の誉れ高い金沢夫人は、設立と同時に畜産学部に勤務し、研究棟でSS培地のテストや鯨肉エキスづくりに一生懸命励まれ、その面では一流のテクニシャンとの定評がある。豊田助教授の着任以来新しい研究室に移り仕事の内容もがらりと変わったにもかかわらず、持ち前の仕事熱心で教室全体から信頼されている。 育種繁殖学教室の学生諸氏の研究テーマは大きく分けて二つに分類されており、一つは配偶子の受精能に関するもの、もう一つは家畜(牛及び豚)の分娩間隔に影響する要因について主に野外実態調査である。しかし学生が自分のテーマを選ぶに当たっては可能なかぎり学生の自主判断にまかせ、その上で指導助言を与える配慮がなされているので卒論の内容は多岐にわたり、最近世間をにぎわせたグルタミン酸ナトリウムの性成熟に及ぼす影響について、研究に取り組んでいる学生もいる。国際的視野の広さもこの教室の特徴とみうけられ、すでにブラジルで研修中の学生が近く帰国予定、入れかわりに北アメリカに研修に出かける学生との歓送迎会の準備に忙しそうであった。卒論専攻生は八名の多さをかぞえ、それに他の研究室の学生も加わって連日ディスカッションに花を咲かせている。というのも研究活動に並行する一連の活動、中でも研究室内の親睦には研究同様に力を入れているからであり、全員が学生生活を十二分にエンジョイしている様子である。思い出深い行事としては五月弘前での観桜コンパや夏の三陸での交歓会があげられ、我々としても羨望の感を一層深め大いに魅力を感じた次第である。これには講義や研究にみられるように豊田助教授の大学や学生に対する考えが現れているように思われる。 北里大学について豊田助教授に話してもらった。「まず第一に、創立期の大学の良さが学生によくあらわれているように思う。その一例として学生と教職員との間にへだたりがなく、一体となって建設しようとする意欲に溢れている。まだ不備な点が多くみられるがともに前進しようとする意気を特に喜ばしいと思う。これを畜産学部の伝統として残していけば素晴らしい。古い大学では容易に見られぬ利点である。このような一体感が当学部において大学紛争の素地がないとはいえぬにもかかわらず相互の不信という形で爆発しないゆえんではないか。」 最後に学生に対して「先生の研究によせる真剣な態度が学生に対し無言の感銘を与えるものである。これは恩師である星冬四郎教授の薫陶を受けて今日に至った自分自身の経験に基づくもので、私としては最良の教育効果であると信じている。学生諸君もただ講義室で受動的に講義を聞くのではなく、積極的に問題をぶっつけてもらいたい。かえってこちらが教えられることもあると思うが、私は教えることは教えられることだと思っている。幸い、本学部には高校時代受験勉強に心身をすりへらし最早学問的情熱を失ってしまっているような学生は見当たらないし、教える側にも若いスタッフが沢山いるのだから大いに切磋琢磨さることを希望する。」 (馬放平:昭和45年2月18日発行から転載) 本研究会の会員による論文解説を掲載します。 【タイトル】ジメチルスルホキシド(DMSO)及びケルセチンの添加でマウス冷蔵精子の受精能力を10日間維持することに成功 【出展】Dimethyl sulfoxide and quercetin prolong the survival, motility, and fertility of cold-stored mouse sperm for 10 days https://academic.oup.com/biolreprod/advance-article/doi/10.1093/biolre/iox14 4/4604773 Phys.orgでビデオを見る https://phys.org/news/2017-12-refrigeration-technology-cold-stored-mouse-sperm.html
ご挨拶代わりに:私の履歴書 |
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本研究会の会員による論文解説を掲載します。
【タイトル】CRISPR-Casシステムを用いたノックインマウス作製における凍結受精卵培養時間の検討
【タイトル】CRISPR-Casシステムを用いたノックインマウス作製における凍結受精卵培養時間の検討
【本研究の概略】従来の過剰排卵誘起法に比べ、雌マウス1匹からより多くの採卵が可能な超過剰排卵誘起法を用いて体外受精を行い、前核期受精卵を凍結保存した。実験計画に合わせて必要数の凍結受精卵を融解し、2-7時間の培養後、異なるタイミングでマイクロインジェクションを行い、CRISPR-Casシステムと1本鎖オリゴヌクレオチドあるいはPITCh (Precise Integration into Target Chromosome) システムを利用した3種類のノックインマウス作製を試みた。マイクロインジェクションを行うまでの受精卵の培養時間を変えることにより、ノックインマウスの作製効率に差異が生じた。そのため、本研究はノックインマウスを作製する際の有用な知見を提供できると考える。
【著者】中川佳子1、佐久間哲史2、西道教尚3、横崎恭之3、竹尾透1、中潟直己1、山本卓2
1熊本大学生命資源研究・支援センター 動物資源開発研究施設(CARD)資源開発分野
2広島大学大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻 分子遺伝学研究室
3広島大学保健管理センター インテグリン治療開発フロンティア研究室
【内容】近年、急速に開発が進んでいるゲノム編集技術をマウス受精卵へ応用することにより、遺伝子改変マウスの作製期間は大幅に短縮されつつある。私達は、超過剰排卵誘起法、体外受精、受精卵の凍結保存などの生殖工学技術とゲノム編集技術を活用した遺伝子改変マウスの作製を目的とし、これまでに体外受精由来の凍結受精卵を用いてTALENやCRISPR-Casシステムによる効率的なゲノム編集個体の作製が可能であることを報告した(Nakagawa et al., 2014, 2015, 2016)。しかしながら、ノックインマウスの作製効率は、ノックアウトマウスの作製効率ほど高率ではなく、ノックインマウスの作製効率を改善することは主要な課題であった。そこで、本研究では、凍結受精卵の融解後の培養時間が、CRISPR-Casシステムと1本鎖オリゴヌクレオチドおよびPITChシステムを用いたノックインマウス作製効率に及ぼす影響について調べた。体外受精後、凍結保存した受精卵を融解、2-7時間培養後、異なるタイミングでマイクロインジェクションを行い、ノックインマウスの作製効率が異なるか否かを検討した。1本鎖オリゴヌクレオチドを用いたノックインマウス作製では、全ての実験区においてノックインマウスを作製することが可能であったが、短時間と長時間培養において、得られた産子のうちノックインマウスの割合が高くなる傾向が見られた。一方、PITChシステムを用いたノックインマウス作製では、短時間培養においてのみ目的とするノックインマウスを作製することができた。今回の報告では、融解後の培養時間が産子への発生率に影響を与えることも示唆されたため、本研究が、目的や個体作製方法の違いによってマイクロインジェクションを行うタイミングを考慮し、より効率的な遺伝子改変マウス作製を行うための一助となれば幸いである。
【出典】Culture time of vitrified/warmed zygotes before microinjection affects the production efficiency of CRISPR-Cas9-mediated knock-in mice. Nakagawa Y, Sakuma T, Nishimichi N, Yokosaki Y, Takeo T, Nakagata N, Yamamoto T.
Biol Open. 2017; 6(5):706-713. doi: 10.1242/bio.025122.
URL: http://bio.biologists.org/content/6/5/706.long
【著者】中川佳子1、佐久間哲史2、西道教尚3、横崎恭之3、竹尾透1、中潟直己1、山本卓2
1熊本大学生命資源研究・支援センター 動物資源開発研究施設(CARD)資源開発分野
2広島大学大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻 分子遺伝学研究室
3広島大学保健管理センター インテグリン治療開発フロンティア研究室
【内容】近年、急速に開発が進んでいるゲノム編集技術をマウス受精卵へ応用することにより、遺伝子改変マウスの作製期間は大幅に短縮されつつある。私達は、超過剰排卵誘起法、体外受精、受精卵の凍結保存などの生殖工学技術とゲノム編集技術を活用した遺伝子改変マウスの作製を目的とし、これまでに体外受精由来の凍結受精卵を用いてTALENやCRISPR-Casシステムによる効率的なゲノム編集個体の作製が可能であることを報告した(Nakagawa et al., 2014, 2015, 2016)。しかしながら、ノックインマウスの作製効率は、ノックアウトマウスの作製効率ほど高率ではなく、ノックインマウスの作製効率を改善することは主要な課題であった。そこで、本研究では、凍結受精卵の融解後の培養時間が、CRISPR-Casシステムと1本鎖オリゴヌクレオチドおよびPITChシステムを用いたノックインマウス作製効率に及ぼす影響について調べた。体外受精後、凍結保存した受精卵を融解、2-7時間培養後、異なるタイミングでマイクロインジェクションを行い、ノックインマウスの作製効率が異なるか否かを検討した。1本鎖オリゴヌクレオチドを用いたノックインマウス作製では、全ての実験区においてノックインマウスを作製することが可能であったが、短時間と長時間培養において、得られた産子のうちノックインマウスの割合が高くなる傾向が見られた。一方、PITChシステムを用いたノックインマウス作製では、短時間培養においてのみ目的とするノックインマウスを作製することができた。今回の報告では、融解後の培養時間が産子への発生率に影響を与えることも示唆されたため、本研究が、目的や個体作製方法の違いによってマイクロインジェクションを行うタイミングを考慮し、より効率的な遺伝子改変マウス作製を行うための一助となれば幸いである。
【出典】Culture time of vitrified/warmed zygotes before microinjection affects the production efficiency of CRISPR-Cas9-mediated knock-in mice. Nakagawa Y, Sakuma T, Nishimichi N, Yokosaki Y, Takeo T, Nakagata N, Yamamoto T.
Biol Open. 2017; 6(5):706-713. doi: 10.1242/bio.025122.
URL: http://bio.biologists.org/content/6/5/706.long
nakagawa20170531.pdf | |
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本研究会の会員による論文解説を掲載します。
【タイトル】CRISPR-Casシステムによる様々なゲノム編集個体の作製-超過剰排卵誘起法を用いた体外受精凍結卵の利用-
【タイトル】CRISPR-Casシステムによる様々なゲノム編集個体の作製-超過剰排卵誘起法を用いた体外受精凍結卵の利用-
【本研究の概略】従来の過剰排卵誘起法に比べ、雌マウス1匹からより多くの採卵が可能な超過剰排卵誘起法を用いて体外受精を行い、前核期受精卵を凍結保存した。実験計画に合わせて必要数の受精卵を準備し、gRNAとCas9を発現するプラスミドDNAあるいは合成gRNAとCas9タンパク質をマイクロインジェクションし、ゲノム編集個体を作製した。1アミノ酸置換マウス、Floxマウスの作製にはCRISPR-Casシステムと共に1本鎖オリゴヌクレオチドを使用した。
【著者】中川佳子1、佐久間哲史2、西道教尚3、横崎恭之3,4、矢中規之5、竹尾透1、中潟直己1、山本卓2
1熊本大学生命資源研究・支援センター 動物資源開発研究施設(CARD)資源開発分野
2広島大学大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻 分子遺伝学研究室
3広島大学保健管理センター インテグリン治療開発フロンティア研究室
4広島大学大学院生物圏科学研究科 生物機能開発学専攻 分子栄養学研究室
【内容】近年、急速に開発が進んでいるゲノム編集技術をマウス受精卵へ応用することにより、遺伝子改変マウスの作製期間は大幅に短縮されつつある。私達は、体外受精や受精卵の凍結保存などの生殖工学技術とゲノム編集技術を活用した遺伝子改変マウスの作製を目的とし、これまでに体外受精由来の凍結受精卵を用いてTALENやCRISPR-Casシステムによる効率的な遺伝子破壊マウスの作製が可能であることを報告した(Nakagawa et al., 2014、2015)。さらに、インヒビン抗血清とウマ絨毛性ゴナドトロピン(eCG)を同時投与することにより、1匹の雌マウスからより多くの卵を採取することが可能な超過剰排卵誘起法を開発したが(Takeo and Nakagata, 2015)、超過剰排卵誘起法を用いた体外受精由来の凍結受精卵をマイクロインジェクションに使用した場合も、これまで同様、ゲノム編集個体を作製することが可能か否かは明らかとなっていなかった。そのため、従来の過剰排卵誘起法(eCG-hCG)あるいは当研究室で開発した超過剰排卵誘起法(IASe-hCG)を用いて体外受精を行い、得られた凍結受精卵を用いて3種類のゲノム編集個体の作製を試みた。その結果、超過剰排卵誘起法を用いた体外受精卵の発生率や産子における標的遺伝子への変異導入効率は、従来の過剰排卵誘起法を用いた体外受精卵の発生率および変異導入効率とほぼ同等の成績であり、超過剰排卵誘起法を用いた体外受精卵を用いて、1本鎖オリゴヌクレオチドを利用したノックインマウスを作製することも可能であった。また、マイクロインジェクションをgRNAとCas9を発現するプラスミドDNAから合成gRNAとCas9タンパク質を使用する方法へ変更することにより、産子への発生率が改善され、ゲノム編集個体の作製効率を上昇させられることも明らかとなった。超過剰排卵誘起法を用いた体外受精由来の凍結受精卵は、従来法を用いた体外受精由来の凍結受精卵と同様、ゲノム編集個体の作製に十分利用可能であり、今後、多くのゲノム編集個体を作製していく上で、実験動物の福祉や受精卵作製の作業効率化において有用な方法である。
【出典】Ultra-superovulation for the CRISPR-Cas9-mediated production of gene-knockout, single-amino-acid-substituted, and floxed mice
Yoshiko Nakagawa, Tetsushi Sakuma, Norihisa Nishimichi, Yasuyuki Yokosaki, Noriyuki Yanaka, Toru Takeo, Naomi Nakagata, Takashi Yamamoto
Biol Open. 2016; 5 (8):1142-8. doi: 10.1242/bio.019349.
URL: http://bio.biologists.org/content/5/8/1142.long
【著者】中川佳子1、佐久間哲史2、西道教尚3、横崎恭之3,4、矢中規之5、竹尾透1、中潟直己1、山本卓2
1熊本大学生命資源研究・支援センター 動物資源開発研究施設(CARD)資源開発分野
2広島大学大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻 分子遺伝学研究室
3広島大学保健管理センター インテグリン治療開発フロンティア研究室
4広島大学大学院生物圏科学研究科 生物機能開発学専攻 分子栄養学研究室
【内容】近年、急速に開発が進んでいるゲノム編集技術をマウス受精卵へ応用することにより、遺伝子改変マウスの作製期間は大幅に短縮されつつある。私達は、体外受精や受精卵の凍結保存などの生殖工学技術とゲノム編集技術を活用した遺伝子改変マウスの作製を目的とし、これまでに体外受精由来の凍結受精卵を用いてTALENやCRISPR-Casシステムによる効率的な遺伝子破壊マウスの作製が可能であることを報告した(Nakagawa et al., 2014、2015)。さらに、インヒビン抗血清とウマ絨毛性ゴナドトロピン(eCG)を同時投与することにより、1匹の雌マウスからより多くの卵を採取することが可能な超過剰排卵誘起法を開発したが(Takeo and Nakagata, 2015)、超過剰排卵誘起法を用いた体外受精由来の凍結受精卵をマイクロインジェクションに使用した場合も、これまで同様、ゲノム編集個体を作製することが可能か否かは明らかとなっていなかった。そのため、従来の過剰排卵誘起法(eCG-hCG)あるいは当研究室で開発した超過剰排卵誘起法(IASe-hCG)を用いて体外受精を行い、得られた凍結受精卵を用いて3種類のゲノム編集個体の作製を試みた。その結果、超過剰排卵誘起法を用いた体外受精卵の発生率や産子における標的遺伝子への変異導入効率は、従来の過剰排卵誘起法を用いた体外受精卵の発生率および変異導入効率とほぼ同等の成績であり、超過剰排卵誘起法を用いた体外受精卵を用いて、1本鎖オリゴヌクレオチドを利用したノックインマウスを作製することも可能であった。また、マイクロインジェクションをgRNAとCas9を発現するプラスミドDNAから合成gRNAとCas9タンパク質を使用する方法へ変更することにより、産子への発生率が改善され、ゲノム編集個体の作製効率を上昇させられることも明らかとなった。超過剰排卵誘起法を用いた体外受精由来の凍結受精卵は、従来法を用いた体外受精由来の凍結受精卵と同様、ゲノム編集個体の作製に十分利用可能であり、今後、多くのゲノム編集個体を作製していく上で、実験動物の福祉や受精卵作製の作業効率化において有用な方法である。
【出典】Ultra-superovulation for the CRISPR-Cas9-mediated production of gene-knockout, single-amino-acid-substituted, and floxed mice
Yoshiko Nakagawa, Tetsushi Sakuma, Norihisa Nishimichi, Yasuyuki Yokosaki, Noriyuki Yanaka, Toru Takeo, Naomi Nakagata, Takashi Yamamoto
Biol Open. 2016; 5 (8):1142-8. doi: 10.1242/bio.019349.
URL: http://bio.biologists.org/content/5/8/1142.long
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本研究会の会員による論文解説を掲載します。
【タイトル】メチル-β-シクロデキストリン (MBCD) による生体膜脂質環境の変化がマウス冷蔵精子の超活性化を誘起する
【タイトル】メチル-β-シクロデキストリン (MBCD) による生体膜脂質環境の変化がマウス冷蔵精子の超活性化を誘起する
【著者】吉本英高1、竹尾 透1、入江徹美2、中潟直己1
1 熊本大学 生命資源研究・支援センター 動物資源開発研究施設 (CARD) 資源開発分野
2 熊本大学 大学院生命科学研究部 薬剤情報分析学分野
【内容】遺伝子改変マウスの輸送には、主に生体による輸送が実施されているが、生体輸送に際して、微生物学的汚染の拡大、輸送中の逃亡や死亡、遺伝子組換え生物の使用に関する法規制および実験動物の福祉の観点から、代替する技術の開発が求められている。そこで我々は、精子の低温保存技術に着目し、遺伝子改変マウスを冷蔵輸送し、輸送された精子を用いた体外受精・胚移植により個体を作製するシステムの構築を試みた。冷蔵保存した精子は、保存期間の延長に伴い受精能の低下が起こるが、メチル-β-シクロデキストリン (MBCD) を処理することで受精能の改善が可能である。しかしながら、マウス冷蔵精子におけるMBCDの受精能改善効果に関する、詳細なメカニズムは不明である。そこで本研究では、MBCDによる受精能改善効果を解明することを目的として、MBCDが冷蔵精子の体外受精率、精子生体膜中コレステロール量、精子先体反応誘起率および精子運動能に及ぼす影響を調べた。その結果、冷蔵精子におけるMBCDの高い受精能改善作用は、強力なコレステロールの除去能が関与していることが示唆された。さらに、MBCDによる精子生体膜中コレステロールの除去は、冷蔵精子における受精能獲得 (超活性化および先体反応) の誘起に密接に関わっている可能性が示唆された。
【出典】
Fertility of cold-stored mouse sperm is recovered by promoting acrosome reaction and hyperactivation after cholesterol efflux by methyl-β-cyclodextrin
Hidetaka Yoshimoto Toru Takeo Tetsumi Irie Naomi Nakagata
Biol Reprod bio142901. DOI: https://doi.org/10.1095/biolreprod.116.142901
URL: https://academic.oup.com/biolreprod/article/2948758/Fertility-of-cold-stored-mouse-sperm-is-recovered
1 熊本大学 生命資源研究・支援センター 動物資源開発研究施設 (CARD) 資源開発分野
2 熊本大学 大学院生命科学研究部 薬剤情報分析学分野
【内容】遺伝子改変マウスの輸送には、主に生体による輸送が実施されているが、生体輸送に際して、微生物学的汚染の拡大、輸送中の逃亡や死亡、遺伝子組換え生物の使用に関する法規制および実験動物の福祉の観点から、代替する技術の開発が求められている。そこで我々は、精子の低温保存技術に着目し、遺伝子改変マウスを冷蔵輸送し、輸送された精子を用いた体外受精・胚移植により個体を作製するシステムの構築を試みた。冷蔵保存した精子は、保存期間の延長に伴い受精能の低下が起こるが、メチル-β-シクロデキストリン (MBCD) を処理することで受精能の改善が可能である。しかしながら、マウス冷蔵精子におけるMBCDの受精能改善効果に関する、詳細なメカニズムは不明である。そこで本研究では、MBCDによる受精能改善効果を解明することを目的として、MBCDが冷蔵精子の体外受精率、精子生体膜中コレステロール量、精子先体反応誘起率および精子運動能に及ぼす影響を調べた。その結果、冷蔵精子におけるMBCDの高い受精能改善作用は、強力なコレステロールの除去能が関与していることが示唆された。さらに、MBCDによる精子生体膜中コレステロールの除去は、冷蔵精子における受精能獲得 (超活性化および先体反応) の誘起に密接に関わっている可能性が示唆された。
【出典】
Fertility of cold-stored mouse sperm is recovered by promoting acrosome reaction and hyperactivation after cholesterol efflux by methyl-β-cyclodextrin
Hidetaka Yoshimoto Toru Takeo Tetsumi Irie Naomi Nakagata
Biol Reprod bio142901. DOI: https://doi.org/10.1095/biolreprod.116.142901
URL: https://academic.oup.com/biolreprod/article/2948758/Fertility-of-cold-stored-mouse-sperm-is-recovered
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