本研究会の会員による論文解説を掲載します。 【タイトル】CRISPR-Casシステムによる様々なゲノム編集個体の作製-超過剰排卵誘起法を用いた体外受精凍結卵の利用- 【本研究の概略】従来の過剰排卵誘起法に比べ、雌マウス1匹からより多くの採卵が可能な超過剰排卵誘起法を用いて体外受精を行い、前核期受精卵を凍結保存した。実験計画に合わせて必要数の受精卵を準備し、gRNAとCas9を発現するプラスミドDNAあるいは合成gRNAとCas9タンパク質をマイクロインジェクションし、ゲノム編集個体を作製した。1アミノ酸置換マウス、Floxマウスの作製にはCRISPR-Casシステムと共に1本鎖オリゴヌクレオチドを使用した。 【著者】中川佳子1、佐久間哲史2、西道教尚3、横崎恭之3,4、矢中規之5、竹尾透1、中潟直己1、山本卓2 1熊本大学生命資源研究・支援センター 動物資源開発研究施設(CARD)資源開発分野 2広島大学大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻 分子遺伝学研究室 3広島大学保健管理センター インテグリン治療開発フロンティア研究室 4広島大学大学院生物圏科学研究科 生物機能開発学専攻 分子栄養学研究室 【内容】近年、急速に開発が進んでいるゲノム編集技術をマウス受精卵へ応用することにより、遺伝子改変マウスの作製期間は大幅に短縮されつつある。私達は、体外受精や受精卵の凍結保存などの生殖工学技術とゲノム編集技術を活用した遺伝子改変マウスの作製を目的とし、これまでに体外受精由来の凍結受精卵を用いてTALENやCRISPR-Casシステムによる効率的な遺伝子破壊マウスの作製が可能であることを報告した(Nakagawa et al., 2014、2015)。さらに、インヒビン抗血清とウマ絨毛性ゴナドトロピン(eCG)を同時投与することにより、1匹の雌マウスからより多くの卵を採取することが可能な超過剰排卵誘起法を開発したが(Takeo and Nakagata, 2015)、超過剰排卵誘起法を用いた体外受精由来の凍結受精卵をマイクロインジェクションに使用した場合も、これまで同様、ゲノム編集個体を作製することが可能か否かは明らかとなっていなかった。そのため、従来の過剰排卵誘起法(eCG-hCG)あるいは当研究室で開発した超過剰排卵誘起法(IASe-hCG)を用いて体外受精を行い、得られた凍結受精卵を用いて3種類のゲノム編集個体の作製を試みた。その結果、超過剰排卵誘起法を用いた体外受精卵の発生率や産子における標的遺伝子への変異導入効率は、従来の過剰排卵誘起法を用いた体外受精卵の発生率および変異導入効率とほぼ同等の成績であり、超過剰排卵誘起法を用いた体外受精卵を用いて、1本鎖オリゴヌクレオチドを利用したノックインマウスを作製することも可能であった。また、マイクロインジェクションをgRNAとCas9を発現するプラスミドDNAから合成gRNAとCas9タンパク質を使用する方法へ変更することにより、産子への発生率が改善され、ゲノム編集個体の作製効率を上昇させられることも明らかとなった。超過剰排卵誘起法を用いた体外受精由来の凍結受精卵は、従来法を用いた体外受精由来の凍結受精卵と同様、ゲノム編集個体の作製に十分利用可能であり、今後、多くのゲノム編集個体を作製していく上で、実験動物の福祉や受精卵作製の作業効率化において有用な方法である。 【出典】Ultra-superovulation for the CRISPR-Cas9-mediated production of gene-knockout, single-amino-acid-substituted, and floxed mice Yoshiko Nakagawa, Tetsushi Sakuma, Norihisa Nishimichi, Yasuyuki Yokosaki, Noriyuki Yanaka, Toru Takeo, Naomi Nakagata, Takashi Yamamoto Biol Open. 2016; 5 (8):1142-8. doi: 10.1242/bio.019349. URL: http://bio.biologists.org/content/5/8/1142.long
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